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る。主にマグロの集魚効果を期待して、開発された物であり、排水量は約90トンでこの種の施設としては大型である。海面上には標識灯とそのための太陽電池が設置されている。浮体部分の直径は7m、コラムの径は1.9mである。海面下7mの位置に集魚効果を高めるために1辺8mの正6角形の平面部分を有し、それにロープで作ったネットをつけて、人工的な藻場を形成する。この藻場に集まる小魚にマグロなどの大型魚の集魚効果があると考えられている。
Fig.2は設置海域の概略図である。沖縄本島中城村の南南東20海里の海上にチェイン係留されている。中城村には沖縄電波観測所が有り、後に述べる観測システムの波浪・潮流観測用HF海洋レーダが設置されている。図中のX印がアンテナの位置を示している。またハッチングの部分が計測可能海域である。「ニライ号」は恒久的なものであるが、運動計測実験は1996年8月5日から9月6日までの1ヶ月間に行われた。
3.1 計測システムの構成
観測システムは前述の海洋レーダとFig.3に示す波浪観測用ブイ、流速計などの海洋環境計測システムとブイの運動を計測する運動計測システムからなる。運動計測システムは日本航空電子工業(株)のMAX3(マックスキューブ)を採用した。MAX3は出力の座標軸を物体固定軸と空間固定軸に選択できることが特徴である。計測項目は前後・左右・上下方向加速度とロール・ピッチ・ヨーの角速度であるが最終的にはこれらの量を積分して浮体の前後・左右・上下方向変位とロール・ピッチ・ヨーの角変位を求める。Fig.3に示めすように人工海底右端に方向制御用のフィンを装備している。海象が厳しい場合にはブイの方向はこのフィンを風下に向けて安定すると考えられる。
3.2 実験期間の海象の概観
Fig.4に8月4日〜8月31日の間のブイ位置での流速計によって計測した水温、流速の変化を示めす。矢印の高さで流速の大きさ、矢印の向きで流向を表わしている。図から分かるように通常は東西の流れが卓越している。また流速は期間中にかなりの変動がある。8月22日〜23日にかけては台風7号が来襲したので、流速が大きくなるとともに、流向も北東に変化した。またこのとき下層の水との混合によって、急激な水温の低下が見られる。HFレーダによる海面環境の監視は実験期間を通して行われた。実例としてFig.5に23日の午前0時〜20時の4時間ごとの海面流速の計測結果を示めす。台風の移動に伴って、流れの方向は東〜南〜南西に変化している状況が良く分かる。またこのときの風速のピーク値は23日の夜半で有ることが波浪ブイの計測から推測されるが海洋レーダの結果と一致している。またブイ付近の流速の値と潮流計計測結果と良く符合する。
3.3 浮体の運動と波浪の計測
Fig.6は計測期間を通しての、波浪計測ブイによる計測結果から求めた入射波高の有義値の変化である。2時間毎のデータをスペクトル解析して求めている。ただし前述のように、8月23日の夜半過ぎは台風による強風が激しいために波浪ブイからの信号が陸上基地に届きにくいために、データに欠測が多く正確とは言えない。Fig.7にブイの運動の有義値の日変化を示めす。浮体の運動の応答関数は入射波の周期に拠るが、運動はおおむね波高の変化に対応している。波高が小さい場合には少し運動が大きいようにも思える。これは計測システムの精度不足によるものであるかも知れないので、今後も検討を続ける必要がある。
22日〜23日にかけて台風7号の影響で有義波高3.5mを記録した。時系列記録によると、このときの最大波高5m、平均周期は7秒であった。Fig.8は23日の午前0時の波・運動の時系列データである。上から入射波、前後揺、上下揺、ピッチの計測植である、前後揺、上下揺については得られた加速度データを2回積分して求めた。ただし最終結果は1/15Hz〜3Hzのバンドパスフィルターをかけている。したがって長周期動揺などについてはこの図からは読み取ることはできない。前後揺とピッチは計測されたX軸、Y軸回りの運動を合成して求めている。
角度の計測値はセンサーの中で既に1回積分して、角度の形で出力される。このときの運動の最大値はピッチについては両振幅で約17度である。上下揺、前後揺、の最大値はいずれも5m程度である。さらにFig.9は2節に示した方法で求めた数値シミュレーション結果である。運動方程式の流体力係数は模型実験の結果を使用した。上下揺、前後揺ともに計測結果と良い一致を示している。ピッチについては計算値は少し大きい。これはピッチの粘性減衰力の計算に水粒子運動の効果を取り入れていない事が主な原因であると思われる。今後はこの点について検討を続けたい。
Fig.10は浮き漁礁設置後の漁獲である、現在、水温・流速との関連を考察中であるが、明確な結論は得られていない。昨年の同時期と比較して、きはだ鮪の漁獲の向上が顕著であるそうである。
4. 結論
深海域に係留された小型の海洋構造物の運動性能の評価法を確立する目的で実海域実験・模型実験・理論解析を行い、以下の結論を得た。
1)HFレーダによる表面流速の計測は流向流速計のデータと良く一致した。
2)開発した運動計測装置は長周期動揺などの低周波数領域を除いて、十分の精度を持っている。
3)本研究で開発した係留浮体の運動計算法による計算結果は実海域実験の結果と上下揺、前後揺については

 

 

 

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